牛の乳房炎によって酪農家が被る損害は甚大である。一旦乳房炎に罹患してしまうと、治療が困難で、慢性化することが多い。そこで、早期診断・早期治療が強く望まれている。
乳房では細菌に対する防御として抗菌性のペプチドや蛋白を生産している。これらは自然免疫因子として知られ、感染の極めて初期に発現するものであり、幅広い細菌種に対して効果を表す。
抗菌ペプチドとしてbeta-defensin のひとつでわる Lingual antimicrobial peptide (LAP) 、S100A7,
cathelicidin-2,7などに焦点を当て、乳房における役割を追及している(Isobe et al., 2009; Isobe, 2017)。また、これらとその他の自然免疫因子であるlactoperoxidase(LPO)やlactoferrin(LF)などの因子および獲得免疫との相互関係についても調べている。最終的に、乳房における自然免疫機能の役割を解明し、それを応用して乳房炎を予防・治療することを目指している。
defensinやラクトフェリンは乳腺胞で(Isobe et al., 2009)、S100A8(Purba et al.,2019)やカテリシジン(Zang et al., 2014)は白血球、S100A7(Zang et al., 2014)は、乳頭周辺の皮膚や内側上皮で産生され、乳中に分泌されていることを示した。
乳房にlipopolysaccharide(LPS:グラム陰性細菌成分)を投与するとこれらの自然免疫因子の乳中濃度が増加することおよびこれらが補助的に機能している可能性を示した。ステロイドホルモンであるエストロゲンを投与したり、3日間搾乳を停止したり(ショート乾乳)すると、これらの自然免疫因子の乳中濃度が増加することを示した(Kuwahara et al., 2017)。
乳房炎になると、分娩が早まることを示した(Liang et al., 2024)。また、子宮内膜炎になると感染細菌の成分が血液にのって乳房へ移動して炎症を起こす可能性を示した(Purba et al., 2020; Jaisue et al., 2022,2023)。この種の乳房炎は免疫能力が低下している場合、起きやすくなるようだ (Purba et al., 2020)。
乳房炎の乳汁を細菌検査に出しても、菌が生えずに同定ができないことがよくあるが、この原因を調べた結果、乳汁保存中に生菌数が減少していることがわかった(Hisaeda et al., 2016)。この減少には乳中の白血球、特に好中球の貪食が関与しているようだ(Koshiishi et al., 2017)。炎症を起こしているので、体細胞数が多くなっており、これはほとんどが好中球であるので、これらが生菌を貪食していたと思われる。この好中球の貪食を抑制する方法を開発し、特許出願中である。
| 鳥類の健康を支える腸内環境・粘膜バリア・母子細菌移行研究(新居) |
私たち家禽粘膜生理研究グループでは、ニワトリを中心とした鳥類を対象に、健康にするための研究をしています。特に「腸を制する者が全身を制する」という考えのもと、鳥類の腸内環境が全身の健康や生産性に与える影響について研究しています。腸内環境とは腸内に存在する微生物によって形作られる環境を指し、腸における栄養吸収や感染防御だけでなく、肝臓や脳の機能、ストレス応答、生殖(産卵)機能など、全身の様々な機能とも密接に関係しています。私たちは、こうした関係性に着目し、腸内環境の変化が卵胞発育や産卵機能へ与える影響、加齢やストレスによる腸・卵管粘膜免疫機能低下のメカニズム、さらに腸-脳-卵巣をつなぐ生体制御ネットワークの解明に取り組んでいます。また、母鶏から卵、そしてヒナへと続く「母子細菌移行システム」の研究を進め、鳥類特有の次世代への微生物伝達機構の解明を目指しています。さらに、プロバイオティクスの作用機序の解明や、卵殻細菌噴霧法などの新たな微生物制御の開発にも挑戦し、抗菌剤に依存しない新しい健康制御技術の開発を進めています。全体を通して、基礎研究と応用研究の両面から、鳥類の健康維持と持続的な家禽生産への貢献を目指しています

(1) 腸内環境と産卵機能に関する研究
腸内環境の変化が産卵機能や全身状態にどのような影響を及ぼすのかを研究しています。腸内細菌叢や粘膜バリア機能は、単なる腸の消化や免疫機能だけでなく、全身的な免疫、代謝、ホルモン分泌、脳機能などの生理機能とも深く関係しています。特に、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を用いた「お腹の調子が悪いニワトリ実験モデル(腸内環境軽度悪化モデル)」を用い、腸炎症が肝臓、卵胞発育、産卵率、卵質へ及ぼす影響を解析しています。また、ストレスホルモンであるコルチコステロンや、経済寿命内の加齢に伴う粘膜免疫機能低下、そ嚢粘膜における鳥類独自の免疫制御機構などにも注目し、腸内環境を起点として鳥類全身を理解することで、健康維持や生産性向上につながる新しい知見の創出を目指しています。

(2) 母子細菌移行システムに関する研究
ヒナは生まれたときから腸の中に微生物を豊富に持っています。この腸内細菌は、いつ、どこから来るのでしょうか?私たちは、母鶏から卵、そしてヒナへと続く「母子細菌移行システム」の解明に取り組んでいます。近年、卵黄内部から微生物由来DNAが検出される例が報告されており、卵内部は完全な無菌環境ではない可能性が示唆されています。本研究では、母鶏の腸管、血液、卵胞、卵黄、ヒナ腸管などの細菌叢を比較解析し、母体由来の細菌や細菌成分が卵を介して次世代へ伝達される仕組みを研究しています。この研究は、鳥類における新しい母子間微生物伝達機構の解明につながるだけでなく、生まれたときから健康になる「良い腸内細菌」を持つヒナを生み出すなど、ヒナの初期免疫形成の補助や健康制御技術の開発にもつながることが期待されます。

(3)プロバイオティクスによる微生物制御に関する研究
プロバイオティクスとは「適切な量を摂取した際に、体にとって良い影響をもたらす生きた微生物」のことを指し、乳酸菌や酪酸菌などが知られています。こうした菌はヒトだけでなく、ニワトリの健康においても良い効果、例えば腸内環境を改善するだけでなく、粘膜免疫機能、栄養吸収、成長性、産卵機能など全身へ影響する可能性があります。私たちは、こうしたプロバイオティクスがどのような効果を持ち、どのように働くのか、その作用メカニズムの研究をしています。また、こうした菌は生まれてからヒナに食べさせるのが当たり前ですが、ニワトリは卵生動物なので、孵化前から働かせることもできるのでは?という視点で新しいプロバイオティクスの投与方法についても研究しています。特に、卵殻表面への有用細菌噴霧法を用い、孵化後ヒナの腸内細菌叢形成、免疫機能、成長性への影響を解析しています。この方法は、胚への負担が少なく、抗菌剤に依存しない新しい家禽生産技術として期待されています。基礎研究と応用研究の両面から、鳥類の健康維持と持続的生産への貢献を目指しています。

(4)その他の研究
私たちの研究グループでは、ニワトリ以外の鳥類を対象とした研究にも取り組んでいます。例えば、セキセイインコでは、腸内細菌叢の変化を指標として老化時期を推定する研究を進めており、鳥類の健康寿命評価への応用を目指しています。また、カラスを対象に、社会行動やヒエラルキーと腸内細菌叢との関係についても研究しています。このように、家禽だけでなく多様な鳥類へ研究対象を広げることで、鳥類に共通する腸内環境と健康維持の仕組みを明らかにし、いつの日か世界中の鳥の健康に寄与したいと思っています。

過去の研究(吉村教授等)鳥類の生殖器における免疫機能とその内分泌的調節(吉村) 家禽の生殖器の免疫機能は生体の感染を防御したり、卵の細菌汚染を抑制するために重要である。また、免疫機能は、卵巣では卵子形成や卵胞発育、ホルモン産生などにも影響し、卵管では精子の生存性にも影響する。一方、卵巣と卵管の発達や機能は内分泌的調節を受けるので、これらの器官の免疫機能もホルモンによる規制を受けるものと推定される。
抗生物質に対する耐性菌の出現などの問題から、自然免疫系に重要な抗菌ペプチドが重要視されてきている。今まで明らかにしたのは以下の通りである。
1.抗菌ペプチドの一種であるAvian beta-defensin(AvbD)がニワトリ生殖器および粘膜組織において発現しており、加齢や菌の存在によってその発現が変化することを示した。
2. 卵殻膜にAvbDが分布していることを明らかにした。
3.TGF-bが精子生存性に関与していることを示した。
4.主要組織適合抗原複合体を発現する抗原提示細胞、マクロファージ、TおよびBリンパ球、免疫グロブリン含有・産生細胞といった主要な免疫担当細胞が生殖器内に局在することを明らかにした。
5.これらの細胞が性成熟に伴って増加することや、この増加にエストロジェンが関与することを示した。
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鳥類卵管におけるグレリンの機能解析 グレリンは成長ホルモン(GH)分泌促進活性を有する合成化合物(GH放出促進因子:GHS)の内因性リガンドであり、GH分泌促進作用に加え、採食更新などを利用した体重増加、消化管機能調節などの生体内の代謝調節に重要な生理機能を有している。ニワトリでは腺胃や視床下部組織でグレリンの発現が報告されている。鳥類では卵管の発達とともに体重増加が認められることから、卵管における代謝調節因子の存在が推察される。また、卵管発達は性ステロイドホルモンの影響を多大に受けることから性ステロイドホルモンが卵管―代謝調節機構に関与している可能性が考えられる。
ニワトリ卵管においてグレリンが発現し、卵が通過する前の方が後に比べて発現が高かった。
内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)と鳥類の成長・生殖・免疫鳥類の卵胞発育・閉鎖機構の解明 性腺刺激ホルモンが、細胞内第二次メッセンジャーとしてのサイクリックAMPを介して、卵胞の顆粒層細胞を増殖させること、また卵胞内の卵子に由来する因子が顆粒層細胞の増殖を促進する可能性があることなどを明らかにしている。
卵胞の閉鎖がおこる理由の1つとして、卵胞内の卵子の死が閉鎖を誘導する可能性があることも見出している。さらに、閉鎖過程の卵胞における細胞死としてアポトーシスが含まれることも認めている。
強制換羽によるニワトリの産卵機能の改善 卵管でアポトーシスとネクローシスにより分泌腺の細胞が一度消失し、再度卵管が発達する過程で新しく増殖した細胞によって分泌腺が再構築されることを見出している。この組織新生とも言える過程の後、卵殻を形成するために必要なカルシウム結合蛋白が増加するなど、卵管の機能が改善されることも明らかにしている。一方,換羽の期間中に、卵管で免疫担当細胞の分布が減少するので、この期間中に感染を防ぐための注意深いニワトリの管理が必要であることも合わせて指摘している。
さらに、内分泌系の高位中枢である下垂体において、換羽中にアポトーシスと細胞増殖が頻度を高めることを認めており、この器官の組織再構築が起こって機能が改善される可能性を考えている。
卵巣における性ステロイドレセプターの存在 卵胞の細胞にプロジェステロン、アンドロジェンならびにエストロジェンのレセプターが局在することを見出している。さらに、卵胞が小卵胞から排卵前卵胞に発育する過程で、エストロジェンのレセプターは減少し、プロジェステロンのレセプターは増加することも明らかにしている。これらのことは卵巣が性ステロイドの標的器官であることを示す新しい知見である。性ステロイドの卵巣での生理的役割の1つとして、プロジェステロンやエストロジェンが卵胞の閉鎖を抑制することも明らかにしている。
ウシ嚢腫卵胞の発達に関する研究 ウシにおいて卵胞嚢腫は代表的な繁殖障害であり、これによる経済的損失は多大である。
一般的な排卵機序は以下のように考えられている。下垂体前葉から卵胞刺激ホルモン(FSH)が放出され、卵巣の卵胞を成長(増大)させる。すると、卵胞からエストラジオールが分泌され、下垂体を刺激しさらにFSHが分泌される。エストラジオールが閾値に達すると下垂体前葉から黄体形成ホルモン(LH)のサージが放出され、排卵が起きる。しかし、何らかの影響で卵胞で合成されるエストラジオールの量が不十分であったり、下垂体でのエストラジオールに対する感受性が完全でなかった場合、LHのサージが起きない。すると、FSHによって卵胞が大きくなり続けるが、排卵しないため異常に大きな卵胞が形成される。卵胞の直径が2cm以上になると卵胞嚢腫と呼ばれるのである。卵胞嚢腫が形成されても、他の卵胞が正常に排卵することもある(良性嚢腫)。普通は排卵が起きずに繰り返し卵胞嚢腫の出現・退縮が繰り返される。排卵が起きないので当然受胎せず不妊に陥る。したがって、繰り返して卵胞嚢腫が形成される場合は早期の治療が望ましいがそのためにはその発達機構を解明する必要がある。
動物血漿中および糞中のステロイドホルモン測定法の検討 以下の測定系を確立した。
動物の血漿中ホルモン(プロジェステロン、エストラジオール、エストロンサルフェート、コルチゾール、テストステロン)濃度の簡易測定法の確立
動物の糞中のホルモン(プロジェステロン、プロジェステロン代謝物=プレグナノロン、エストロンサルフェート)濃度測定法の確立